『スロー・イズ・ビューティフル』を読みました。
- 2017.07.10
- 読書ログ

辻信一さんが書かれた『スロー・イズ・ビューティフル』を読みました。東京に住み始めて2年と少し、物事の流れの速い東京に刺激を感じつつも、何というかこう、ずっとここには住んでいけないなと思えてしまうような、漠然とした違和感を持つようになってきました。
そんな中、文化人類学者の辻信一さんとコミュニティデザイナーの山崎亮さんの対談を聞く機会がありました。白状するとそれまで辻信一さんという方のことは知らずに、山崎亮さんにひと目会いたくてその対談を聞きに行ったのですが、対談の中での辻さんのスローな生き方についての話に魅力を感じ、山崎亮さんがこの本を絶賛していたこともあって、この本を読むことになりました。
「スロー」がネガティブに響くのはどうして
「スロー」という言葉には少しマイナスなニュアンスを感じてしまいます。人から「遅い」と言われたら確実に文句だと受け取りますし、僕自身行動の遅い人をみるとイラッとします。「マイペース」と言い換えてみると少しまろやかにはなりましたが、それでもまだ否定的な雰囲気は残しています。
なぜスローがダメなのでしょうか。「だって遅いとそれだけできることが少なくなるじゃないか」と僕の心がささやいていますが、ではできることが多いと何のメリットがあるのでしょうか。たくさんの事を成し遂げられたらなにか得になるんでしょうか。幸せになれるんでしょうか。
成長、効率、競争、開発、進歩など、この日本で暮らしているとこれらのことは良いことで自分の幸せにつながるんだと思ってしまいそうですが、本当にそうなのでしょうか。この本はそう思いがちな僕達に、少し止まってまわりを見回して見ようよと言ってくる、そんな本です。
「ファスト」の先に何があるのか
「スロー」の対義語として「ファスト」があります。ファーストフードやファストファッションのファストです。これらの言葉以外にも、ファーストエコノミーやファーストライフと言う言葉もあり、「ファスト」は今や生活全体を覆っています。
ファストな生活の先には何があるんでしょうか。経済が成長していた時代には、ファストがそのまま給料に直結していたのかもしれません。効率的にでかい仕事をこなせば、会社が儲かって自分の給料が上がる。給料の増加は自分の幸せに直結するんだと考えて、もっと大量の仕事を効率的にこなしていくために精一杯頑張る。この時代は景気が良かったので、その努力が結果に結びついたことが多かった。
だけど現在、そんな時代は終わってしまいました。頑張っても頑張っても成果に結びつかない。もっと速く効率的に!と自分に発破をかけても、ただただ疲弊した自分がいることに気づく。そんな今があります。
しかし、たとえその努力が成果に結びついていたとして、それは幸せに結びつくのでしょうか。給料があがったから車を買った、家を買った、子供をいい大学に行かせた、それだけで幸せになれるのでしょうか。給料が上がって、それより1クラス上の生活水準になったら、すぐにそこに慣れてしまって、また新しいものが欲しくなるんではないでしょうか。結局身の回りにたくさんの高級品があふれたとしても、まだあれがほしい、これがほしいと思っているんではないでしょうか。
物欲だけではなく、昇進や食べ物にも同じようなことが言えると思います。
立ち止まって今を感じてみる
速さを求めることをやめて、今を感じながら生きるのがスローライフです。食事を一からつくるプロセスを楽しんだり、目的地まで寄り道してみたり、仕事場の同僚と無駄話をしてみたり、そういった効率性ばかりを追い求めるのではなくて、今を楽しんでみる。そちらのほうが幸せな生き方のように感じます。
今の世の中は「時短」という言葉が流行っているように、効率性を極度に追い求めます。だけどそうやって時短をして捻出した時間は一体どこへ行ってしまったのでしょう。おそらくファストな価値観で動いている私たちは、その捻出した時間さえもまた別のことを時短をすることに費やしているんだと思います。自由でストレスの無い時間をつくるためには、まずはファストな価値観を転換するところから始める他ありません。
エコロジカル、サステイナブル
スローという言葉の中には、エコロジカルやサステイナブルといった意味も含まれています。これはファストな生活は環境に悪影響を与えており、それの反対のスローな生き方は環境にやさしい生き方だからです。
例えば、便利で効率的で進歩を求める価値観は原子力発電所を作りました。原発のおかげで、1基つくるだけで、たくさんのエネルギーを効率的に作り出すことができました。しかし、この発電所はフクシマの事故を発生させます。フクシマ以外の原発も核廃棄物を出し続けます。
私達の便利な生活が、私達の住環境を壊しています。しかも秘密裏に。そんなことまでして、便利な生活は必要なんでしょうか。
おわりに
効率性万歳と思っている人がこの本を読むと、すごくドキッとすると思います。事実、僕がそうでした。この社会に生きていると誰もが感じたことがあるファストな社会への違和感、その違和感を揺さぶってくるような本です。
出世もしたいし、起業で成功もしたいし、お金持ちにもなりたいと思っていましたが、もう少しスローでも良いかなと思いました。
-
前の記事
仕事に効率性を求めることは良いことなのか 2017.07.06
-
次の記事
出張と聞いただけでワクワクしてしまう 2017.07.11