社員にやさしい経営が会社を強くする

社員にやさしい経営が会社を強くする

メガネ21の平本清さんの著書『会社にお金を残さない!』の書評です。
社員中心の経営という言葉は度々耳にしますが、この会社はその追求の仕方が普通ではなく、度が過ぎるあまり一般的に考えられている経営術からするとかなり逆行しているように見えます。

その常識はずれな手法によって、社員満足度が高いのはもちろんのこと、会社の規模もどんどん拡大しています。
読み進める内に、こんな会社で働いてみたい!とすごく思うようになるのですが、そもそも「会社」というものの定義がどんどん分からなくなっていきます。
それほど革新的な一冊でした。

内部留保ゼロ

この会社は内部留保を毎年ゼロに保っています。つまり、毎年利益の額をゼロにしていると言うことです。
なぜそうなるのかというと、利益が出た時は社員にボーナスとして分配をして、決算期末には利益の額がゼロになるように調整します。社員の給料は会社からすればコストなので、最終的な会社の利益はゼロになるというわけです。
ボーナスは年に3回で、数百万円になることもめずらしくないということです。これを聞いただけでもこの会社に入りたい。

ただし、儲けが出なかった時はその分ボーナスも減ります。儲かれば社員に分配し、儲からなければ配らない。
またこの方法は、退職金の前払いという側面もあるようです。確かに、会社がバタバタ倒れていく時代に、退職金制度をとるのは時代遅れなのかもしれません。
すごく理にかなってますね。

理にはかなっているのですが、「えっ、そんなことしちゃって大丈夫なの!?」と感じるのが普通だと思います。
会社は利益を出すことが目的なのに、それを全部社員に分配してしまうなんてどうかしてます。

ただ、これには1つからくりがあって、この会社は株式を社員で持ち合っているのです。
したがって、会社の利益=株主の利益=社員の利益となるため、このような方法がとれるのです。
もちろん、上場企業ではこんなことできません。

社員からの直接金融

内部留保をゼロにしていると、会社にお金が貯まらず、何か大きな出費が必要な時に支払いができなくなることが考えられます。
しかし、この会社ではそんな心配はありません。その理由は、社員から直接お金を借りているからです。

その会社で働いているという理由だけで、社員はお金を貸したりするとは思えませんが、2つのインセンティブを設定することによって、社員は進んでお金を貸し出しています。
1つ目は約10%という利子の高さで、2つ目は貸している額が評価に関わるということです。

10%の利子とは一見高すぎるように思えます。実際、銀行からだと数パーセントの利子で融資を受けることができるにも関わらず、わざわざ悪い条件で社員から借りる必要はあるのでしょうか。
実はこの利子の高さは、社員への利益の還元の意味合いもあるのです。給与として社員に支払ってしまうと所得税がかかりますが、利息になると税制上有利にもなります。

また、会社にお金を貸しているということは、会社のリスクを一緒に背負っているということなので、高い評価も受けることができます。
利率が良くて、評価にも関わるなら、確かにお金を貸したいと思いますね。

フラットな人事制度

この会社では、部長・課長などの役職がありません。社長の肩書はあるのですが、それ自体は対外的なものにすぎず、実際の権限はというとほとんどありません。
というのもこの会社では、実際に考えて動いているのは手を動かして働いている社員であり、社長や中間管理職は意味が無いと判断しています。
社長の肩書も、4年の任期を定めており、自動的に交代するようになっています。

そして、その組織は「フラット」と「サークル」で表現されます。上述の役職・上下のない「フラット」な集団のなかで、部署や店舗などの「サークル」を形成していく形が理想だといいます。

さいごに

これらによって、社員のモチベーションが向上し、会社の業績が上がっていくというのがこの本の趣旨です。

やり方が常識から離れすぎているために、混乱しながら読み進めていたのですが、自分なりに細かく噛み砕いていくとかなり理にかなっていて納得できる内容だと感じました。
一言で言うと、社員のコミットメントを自主的に高めるように働きかけることが重要だと思います。

アメリカでは「会社は株主のもの」、日本では「会社は社員のもの」という違いがあることがよく言われますが、近年では日本もアメリカの考えに染まってきているように感じます。法律的に言えばアメリカの解釈が正しいので、議論の余地はないかもしれません。しかし、日本的な考え方をステキだなと考える人も少なくはないと思います。

そういう意味では、株主を社員にしてしまい、また借金する相手までも社員にすることで、アメリカ的なロジックの中で日本の価値観を再現したといえるかもしれません。しかも、それで社員のモチベーションも上がるのだから、いいことしか無い。
そのロジックの中では、企業の成功は会社の利益の額ではなく、社員の満足度と給料で測られるというのも納得できます。

ただ、起業や投資を考えている人からすれば、あまりいい話では無いかもしれません。会社の業績が良いことによって利益を被るのは実際に働いている社員であって、株主では無いからです。
作った会社を売却して何億も稼いだり、投資で試算を何百倍にもしたりするような人のビジネス感覚からすると、かなり的はずれなやり方に見えるのでしょう。

どちらかと言えば、社会主義的な視点で見た方がしっくりきたりします。資産をたくさん持っている人(株主)が持たざる人(労働者)を従えて、さらなる資産を積み上げていくという企業の形から、労働者を株主とすることで、自分が生産したもの全てを自分が受け取るという形態を作り上げているようです。
かつて共産主義は、それを国家単位で作り上げようとして失敗しましたが、この会社の例はそれを企業単位で成し遂げようとしていると言えるかもしれません。

と、いろんな解釈ができますが、それほど突飛ですばらしい経営手法だと言えるでしょう。