僕が実家の会社を立て直せなかった理由
- 2018.09.30
- 仕事

東京のサラリーマンを辞め地元山口県に帰り、実家の会社に入社してからもう9ヶ月経ちます。
大学で経営学を勉強し、東京でもそれなりに仕事をこなしてきた自負から、満を持しての帰郷のつもりでしたが、現状を語るなら失敗しております。
その原因は一言では読みが甘かったということになりますが、そこには実際に実家の会社に入ってみなければわからないような根深い問題が存在しました。
これから実家に戻って家業を手伝うという人は、ぜひ参考にしてほしいです。
会社のプロフィール
まずは私が働いている会社の内実から。
社員は私含め6人の零細企業。工事系の職種で、その仕事の多くは下請けです。
業績としてはどうにか利益を出せているような状態。
確実に存在する工事の需要から潰れはしないが、ノウハウがないためたくさんの利益を出すことができないという、おそらく田舎にはたくさんあるであろう零細企業の一つです。
しかし過去にバブル崩壊後の煽りで、借金をたんまり溜め込んでおり、現在は過去の借金をゆっくり返していっています。
借金は着実に返せているのですが、まだまだ残金があるため新たに設備投資等のために借金をすることができず、企業として身動きが取りづらい状態です。
これから成長していくにはまずは借金を返すことが直近の課題で、私に課せられた使命はまさにそこだと感じていました。
今は景気が良いのでギリギリ利益を出せているものの、景気が悪くなれば一気に赤字へ転落することは明らかなので、その時のための備えをしっかりとし、そして収益体質にしていかなければなりませんでした。
零細企業は売上を上げたくない!?
私がこの会社に入ってからは、小さい企業のバイブルである「ランチェスター戦略」をベースに戦略を練っていきました。
今まで下請け中心だったところを、下請けとエンドユーザー直を半々にするように予算を組み、営業戦略を考えました。
地方というのはマーケットのパイが小さいですが、その分競合企業が少ないため、確実に需要がある業界で着実にマーケティングをやっていけば、売上アップはそんなに難しくないようです。
実際にランチェスター戦略に従って、サービス内容とエリアを絞って、試しに広告を売ってみると、予想通りの反響が得られました。
問い合わせいただいた方にヒアリングすると、まさにこちらが想定していたような問題を抱えており、あとはこれを拡大していくだけでした。
文字面では伝えにくいですが、本当にかなりの手応えがあり、業績アップの目標値もより現実的なものとして見えてきました。
しかし、この路線で拡大していくに従って新たな、そして非常に大きな問題に直面しました。
それは社長である父が、私が進めることに対して、急に後ろ向きになり始めたことです。
父も私がいろいろ試している途中はとても好意的に見ていました。
借金を早く返すことはいいことだし、利益が増えて儲かることに越したことはないと。
しかし、私が会社のやり方を本格的にいじろうとし始めたところで、父は何かと理由をつけてそれを阻止しようとしてきました。
論理的には明らかに私が正しい。
父も私の言っていることを退けることはできませんでしたが、ウヤムヤにするなどしてそれをさせませんでした。
まるで売上・利益を上げることを良しとしていないようで、とても戸惑いました。
零細企業の現状維持バイアス
一言で言うと、私の父は「現状維持バイアス」にとらわれていました。
私の言っていることが論理的に正しいということは分かっている。
私のやろうとしていることの実現性もそれなりに高いことは理解しているようでした。
しかし父は、失敗したときのことを考えると耐えられないし、それ以前にその変化をもたらすだけの気力が父にはないようでした。
これには困りました。
この会社は創業から30年間、父を中心としてきてやってきています。
他の零細企業の例に漏れず超属人的なので、父の協力なしには会社の売上向上は難しいのです。
それに加え、父には業績悪化時のトラウマがかなりあるようでした。
この会社はバブル崩壊の影響が地方に波及するまでは少しずつ規模を拡大していました。
それが景気が悪化すると、人件費が利益を押し下げ、借金を貯め込むこととなってしまったのです。
父にはその印象が強く残っており、心理的にそのトラウマが引っかかることで、売上拡大案を拒絶する結果となっているようです。
社長の壁
そこに気がついた私は、父と二人で進めていく形では会社の再建は難しいと判断しました。
その結果、父は経営の主導権から外して、自分ひとりでやっていこうと決めました。
本当に極端な判断だったと思っていますが、私自身この会社の業績改善と借金返済のために地元に戻ってきたところもあり、本当に使命感に燃えていました。
いま思い出しても身震いがします。
しかし孤独に突っ走ることを決めて進んでみると、やっぱり行く手を阻むのは「社長の壁」でした。
営業方法をかえるくらいではどうってことはないのですが、経理・人事・広報・業務プロセスなどを変えようとすると社長の反発にあうのでした。
例えば、今の業務プロセスを変えるためには、現状を知るために社長から話を聞く必要が出てきます。
もちろん社長も勘付きますから、そこで言い争いとなり、「そんなことされても俺は従わない」と最終的には感情論で否定され、為す術がなくなるのです。
こうやって孤独に戦っていると、「あれ、俺は一体何がしたいんだろう」と迷いが頭をよぎります。
そんな時は「俺の使命はこの会社を再建して、借金を返し切ることだ」と自分に言い聞かせて奮起させていました。
会社は株主のもの
そんな中、ふと「この会社は再建の必要があるのだろうか」「借金は早く返すべきなのだろうか」という疑問が浮かんできた時に、この姿勢は変わることとなりました。
会社の業績を伸ばすことや借金を返すことは、世間的には正しいことだと見なされているのだと思います。
私もその常識に従って働いてきていました。
しかしそれはあくまでも一般的な考えであって、普遍的な真実ではありません。
父はこの「一般」から漏れる存在でした。
理性では売上アップと借金返済を是としていたかもしれませんが、感情は明らかに否定していました。
売上アップは人を増やさなければならず、過去に失敗した経験があるからやりたくない。
借金は現状でも少しずつ返せているからいいじゃないか。
将来景気が悪くなったときのことなんて、そんな面倒くさいこと今考えなくてもいいじゃないか。
今までもどうにかやってこれたのだから、これからもやっていけるはずだ。
30年間続けてきたやり方を変えるのは、不安だしその必要性も感じない。
こうやって現状を変化させる案は棄却されるわけです。
そしてこういう状況になった時に会社の方針となりうるのは、株主であり社長でもある父です。
社長の息子である私がどれだけ論理的であろうと、株主兼社長の父がいる以上、どうすることもできないのです。
そして私はどうしたか。
諦めました。
父がそれを望んでいない以上、私が進める必要はないと考えました。
何のために働いている?
どうしても父が悪者みたいな書き方になってしまっていますが、私としてもすごく学びがあったと感じています。
「会社の業績の向上」が何を意味するのかを改めて考える機会となりました。
会社とは、定義としては利益を生み出すための組織ということになるでしょう。
その利益と引き換えに、社会に価値を提供しているとも言えます。
この定義からは、利益を生めば生むほど良い企業だとも言えるでしょう。
しかし会社とは上記の定義に忠実に動いているものではなく、人間の集団であるためにとても人間的な要素も持っています。
日々の大半の時間を過ごす会社は、自分の居場所でもありますし、その中での地位は自己肯定感にも繋がてきます。
そして仕事はつまらないもので、できるならやりたくありません。
この人間的な部分は挙げていくと切りがありません。
このすごく人間的な複雑な部分に今回の問題が潜んでいるように思えます。
私はシンプルに会社は利益をあげるべきだと思っていました。
大学で経営学を学んでいたというのもあり、アメリカ的な価値観で動いていたのでしょう。
株主(=父)の利益のために会社組織はある、と経営学では言われますが、私はここでいう利益とは文字通り金銭的な利益であり、株主の感情的な利益(安らぎがあるなど)は無視していました。
そして父は、社長としての自分の居場所を維持し、めんどくさいことはなるべくやりたくないという立場をとっていました。
金銭的な利益や収益体質を強めることについて、いいことだとは思っていましたが、感情的には二の次です。
父にとっての会社の存在意義とは、今の自分の状況(社長という社内での立ち位置や、会社経営者という世間的な立ち位置など)を維持することであったようでした。
これに気付いてから、父の過去の言動を振り返ってみると、「今のままの業績を続けられればいい」と度々ぽろっと言っていたことを思い出しました。
私と父の考えは対照的ですが、おそらくどちらも間違っているとは言えないのでしょう。
そしてこの2つの中でどちらが優先されるかと言えば、それは株主であり社長の父となるわけです。
それに気づいてからは、私は会社と距離を置くことにしました。
この会社とは別法人を作って、自分のやりたいようにしていきたいと思っています。
「会社は株主のもの」という私の中での定義に忠実になるなら、自分のやりたいことをやるためには、父の資本のもとに働くのではなく、自分の資本で会社を作ってやっていくしかないのだと実感しました。
まとめ
「2代目社長が会社を潰す」みたいな話はたくさん聞きます。
わたしも2代目社長の話は、本人から聞いた話も含めたくさん見聞きしました。
その中でわかったことは、2代目は創業者と違うやり方をしようとするということでした。
そのやり方が悪かった時に「会社を潰す」という話になるのでしょう。
最近の話題では大塚家具がそうなっています。まだ潰れてはいませんが。
しかし日本でいちばん有名な2代目社長としてユニクロの柳井さんがいますので、やり方によっては地域の中小企業から世界的な企業へと変わることもできるのです。
そして創業者が社長として会社に残り、2代目が次期社長候補として会社に入ったときには、2代目が大人しくしていない限り、今回僕が直面したような争いになると思います。
(僕自身は2代目社長になるつもりはなかったのですが)
今回わかったことは、創業者のやり方を改めて、自分の論理で会社を作り変えようとする時は、自分がせめて社長の身分、理想は株ごと創業者から引き受けないと、無為な争いへと発展します。
本当に頑張らなくてはならないのは、マーケットとの対話や競合企業との争いなのですが、それを分かっていながら社内で争っていると、本当に自分は何をしているのだろうという気になります。
創業者を説得するというやり方も器用な人なら取れるかもしれませんが、意見が分かれることは仕方がないことだと思うので、自分が社長になって経営を任せてもらえるようになった方が簡単でしょう。
私は自分が会社を引き継ぐつもりははじめから無かったため、会社では父の価値観の中で小さな改善をする程度に留めることにしました。
その傍らで、自分自身で自分勝手にやっていけることを進めているところです。
これが本当に正しい判断なのかはわかりませんが、これが今の自分の結論です。
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